今回は日本初のマイクロファイナンスファンドを企画している特定非営利活動法人LivinginPeace理事長の慎泰俊氏をゲストにお招きし、「多様なリターン設計が拡げる金融市場 〜日本初マイクロファイナンスファンドの挑戦」をテーマにディスカッションしました。
「15歳からのファイナンス理論入門」の著者でもあり、実際に自分でファンドを企画している慎氏から、投資ファンドでの経験や知識を活かしたNPO活動や、そしてこれから転身するプライベート・エクイティを通じて実現したいこと、そして活動の根っこにあるご自身の原体験などを伺った後に、NPO活動としてのマイクロファイナンスファンドが誕生した経緯やその可能性、パートタイムNPOの運営の難しさと面白さなどを会場とディスカッションしました。
多くの問題を解決し将来への希望にも繋がるからお金や利益は大切である、誰でもできるしくみこそが世の中を変えることが出来る、ないことを嘆くのではなく今あるもので最大限の結果を出すことを考える、といった慎氏の想いや行動力は、ビジネスを学ぶものとしては背筋が伸びる話であり、Management Impactの企画趣旨に見事に合致するものでした。事業を通じて社会にインパクトを出していきたいと静かな情熱を持って語る慎氏に、憧れたKBS生も少なくなかったようです。
その日の学びを、その場にいなかった人とも共有するために、当日の議論は、twitterで実況しました(ハッシュタグ #mgtipt)。そのまとめがこちらにありますので、ご覧いただくと実際の議論の流れがおわかりになると思います。KBSのオフィシャルサイトにもレポートが載っていますので、そちらも併せてお楽しみください!
今回は、ハイレベルな金融用語が飛び交うディスカッションとなりましたが、マイクロファイナンスの細かなスキームやLIPの活動内容については、オフィシャルウェブサイトを見ていただけば分かるので、ここでは主観的な感想を少し。
慎氏はNPOの運営、マイクロファイナンスの活動だけでなく、児童養護施設の子どもたち向けの教育プロジェクトも展開しています。いわゆる“社会貢献活動”を非常に熱心にやっていらっしゃる方なのですが、その背景にある考え方を形成している、学生時代の経験がとても印象的でした。1つは、カルチャーを変えるためには、意思決定をする立場にいる人が変わらなくてはいけないと気づきにつながったカツアゲの話。もう1つは、正しいと信じることや人のための何かをすることは、必ずしも喜ばれるわけではない、だから見返りを求めてやるものではない、という気づきにつながった歯を折った話。どちらも社会貢献活動に携わる人の全てが分かっていることではないのですが(あくまで個人的な感覚です)、社会のしくみを変えるためには必須の考え方なので、こういう方こそが社会にインパクトに与えていくのであろうと感じました。
また、パートタイムNPOやマイクロファイナンスのスキーム作りの際の発想として、本質的な問題解決のためには、低コスト・オペレーションをいかに実現するかという点も重要だそうです。途上国のマイクロファイナンスは、現地調査に大きなコストがかかることからペイしやすい大規模なところに資金が偏っているそうで、その問題を解決する、つまり小さな規模のファイナンスを実現するために、調査コストの低減(究極的には現地の訪問調査なし)を実現しようと尽力なさっています。またフルタイムではなくパートタイム・スタッフでNPOを運営する点について、「誰でもできることだからこそインパクトに繋がるんだ」ということを語っていらっしゃり、スケールアウトの視点が最初から入っているのだなと感じられました。金融制度の不備をまずは解決すべきじゃないかという発言に対しても、「自分の考え方として、無いなら無いでその所与の状態で何が出来るかを考えるんですよね」と語ってもおり、ああ、この人は慈善家ではなく起業家なんだな、とつくづくと感じました。
なお、企画側として少し心配だったのは、慎氏の活動に対して批判的な意見が集中することでした。というのも、我々はビジネスセクターのマジョリティの関心を惹きつけられること、懐疑的な目をもつオーディエンスを意図的に混ぜることで客観的で建設的な議論を展開すること、を目的にセミナー企画を作っていまして、ゆえにオーディエンスは、ソーシャルな活動に最初から関心がある人ばかりではないからです。ディスカッションも経済合理性を前提にしています。そういった人たちに慎氏の活動がどう評価されるかということをやや懸念していたのですが、終わってみれば全くの杞憂でした。そして、この懸念を事前に伝えた我々に、慎氏が返した言葉は今でも私の頭に残っています。
「本当に素晴らしいものは、ビジネスの視点から見ても素晴らしいものであるはずだと思います。そして冷たい言葉を浴びせられても色あせないものが、本物の情熱だと考えています。」
(文責:国保)